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スヴェトラーノフ&ミュンヘン・フィルのワーグナー・アーベント!1988年12月 ガスタイク・フィルハーモニー、ライヴ!旧ソ連の巨匠指揮者エフゲニー・スヴェトラーノフが、チェリビダッケが完全統治をなしたミュンヘン・フィルに客演したワーグナー・アーベント・ライヴ。恐らくこれが唯一の共演と思われます。ゆっくり、たっぷりとしたテンポが採用され、ソビエト国立響との演奏で聴かれたバリバリ、ガリガリの雄叫びは陰を潜め、しっとりとした落ち着きと極大な包容力を誇る魅力たっぷりの名演集です。1988年というとチェリビダッケが鍛えに鍛えた全盛期のミュンヘン・フィルです。シルキーで透明な弦楽合奏の美音、マッシヴな金管の咆哮、アンサンブルの精緻は滅多に耳にすることのできない逸品と申せましょう。「ミュンヘン・フィルを隅々まで知る男」許光俊氏、「スヴェトラーノフを味わいつくした男」はやしひろし氏による微細に渡る分析と、丁寧な紹介が嬉しいライナーノートも魅力です。英語、日本語、ドイツ語によるライナーノート付。(東武トレーディング)【許光俊氏のライナーノートより】 最初の「マイスタージンガー」第1幕前奏曲はやや雑然としているが、2曲目の第3幕前奏曲以後は、この指揮者とオーケストラが意外なほどに調和しているさまが見て取れる。これは、すでに老いを自覚し、雑念や欲から逃れようとする主人公がもの思いに耽る場面で奏される音楽である。オペラ全体の中でもっとも深みのある音楽のひとつとされているけれど、ここでのスヴェトラーノフのように感情豊かに奏でた例は空前絶後ではないか。おそらく劇場では難しいであろうほどのゆっくりしたテンポで、ひとりの男の胸に去来するもの、すなわち自分は去らねばならないと知った人間の悲しみをじっくりと描き出す。豊満な音色の弦楽器は時にすすり泣くようにも聞こえるし、2分過ぎからなど、まさしく溜め息そのものような音楽だ。ヴァイオリンやフルートのあまりにも澄んだ響きは、さすがにチェリビダッケとともに繰り返しブルックナーを演奏し続けてきた楽団ならではの美しさである。 続く「ローエングリン」第1幕前奏曲も息をのむような美しさで、陶酔的だ。単に音響的に美しいというだけではない。醜悪なこの世界を逃れて、美しい世界に憧れる強い気持がどうしようもなく切々と示されているのである。私はこの「ローエングリン」第1幕前奏曲ほど、現実の世界に絶望し、別世界を夢想してそれに殉じようとするロマン主義芸術家たちの悲惨と栄光と誇りを表現したものはないと思っているが、スヴェトラーノフが奏でたのはまさしくそのような音楽だ。ついに感極まったように金管楽器群が圧倒的な音響の大伽藍を築きあげるとき、そこに鳴っているのはまさにひとつの精神である。先の曲と同じくこの曲でも、時間が完全に止まっているのではないかという不思議な印象を受ける。【はやしひろし氏のライナーノートより】では、この演奏、客演機会が少ない場合のご多分にもれず平凡なものか? それも否である。 この演奏、オケが実に活き活きとしてよく鳴っているのだ。 弦が表情タップリに深々と大きめの呼吸の元で奏でられ、木管がリズミカルに跳ね、金管がスパーンと強く奏される。 この開放的な鳴りの良さはとても魅力的である。スヴェトラーノフが客演すると共通して「オケの音とスケールが普段より大きくなった」とよく言われる。 N響への客演で実際にそう感じられた方も多いだろう。これは、彼が左手を振り上げそう要求していることもあるが、彼を前にすると、楽団員が無意識のうちに、自身を開放させ、呼吸が大きくなり、結果、強く大きな音が出るようになるらしい。 <中略>スヴェトラーノフとチェリビダッケ支配下のミュンヘン・フィル、そしてワーグナー。いずれの組み合わせも、固定観念では発想しがたく、実現した経緯も半分イベント的な意図だったかもしれない。しかし、その結果、高い次元でスタンダードさと開放的な力強さのバランスが取れた名演が生まれた。 最もドイツ的なオケによる力の漲った鳴りっぷりのいいワーグナーの名演、と言ってもいいかもしれない。 それは、逆にこのコンビだったからこそ誕生し得たものであり、いつもとは異なり、自国の音楽をストレスフリーで楽しんでいる楽員の活き活きとした表情が見えるかのようなワーグナーなのである。【収録情報】ワーグナー:・『ニュルンベルクのマイスタージンガー』〜第1幕、第3幕前奏曲・『ローエングリン』〜第1幕、第3幕前奏曲・『タンホイザー』序曲・『トリスタンとイゾルデ』〜前奏曲と愛の死・『ジークフリート』〜森の囁き・ジークフリート牧歌・『ワルキューレ』第3幕〜ワルキューレの騎行 Powered by HMV
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