地域輸送の要として、日本国有鉄道が存在したのは、もはや30年以上も前の昔語りとなってしまった。国鉄時代の地方路線における旅客輸送を支えたのは、同じようないで立ちで全国津々浦々まで進出した一般形気動車だった。時は昭和末期に移り、普通列車にはキハ58等、かつて急行列車等で活躍した車両が入り混じるようになったが、山間区間や海辺を行く短編成の気動車は、四季の移ろいが顕著な日本の風土に良く馴染んだ。北海道等で赤字地方交通線の廃止が進められた際、路線の最期に寄り添ったのは優しい装いの気動車だった。そして彼らの一部は民営化後も現在まで、本線系の運用等で衰え知らずの走りを見せている。しかし、国鉄末期に登場したキハ40でさえ、製造から半世紀に至らんとしている今日、僅かに残された活躍の場から、その姿が消える日は確実に近づいている。2022年の春には長距離普通列車が運転されていた根室本線で活躍する車両が、新鋭車に置き換えられる予定だ。ともすると旅情が希薄になったと感じる現代の鉄道周辺。それでも遠くへ出掛けたいという旅好きの想いはくすぶり続ける。遠くから列車のジョイント音が響いて来るような夜。どこにでもいた一般形気動車の姿を通して、民営化前後にあった温かく彩り豊かな、日本の鉄道情景を振り返っていただきたい。