「わたしたちはコンパスやクロノメーター、六分儀、ラジオ、レーダー、音波発信器などを使ったナビゲーションに親しむあまり、昔の人類はただ通常備わった感覚と伝え聞いた知恵だけを頼りに、未知の領域を遠くまで旅し、前人未踏の荒野を抜け、海図のない海を渡ったということが信じられないのだ。」そう語る著者は、GPSのない時代にチャールズ・リンドバーグをはじめとする冒険家らの尊敬を集め、「ナビゲーターたちのプリンス」とも呼ばれたハロルド・ギャティ(1903-57)。自然物を手掛かりとするナビゲーション技法(ナチュラル・ナビゲーション)を究めた航空パイオニアだ。本書は彼が遺したナチュラル・ナビゲーション入門書。必要なのは才能ではなく、誰もが「わずかな練習をするだけで、自然のしるしを道路標識と同じように間違いなく読みとれるようになる」と説く。英語圏では1958年から愛読され、「時を経るにつれて重みを増す」とも評される本である。「まっすぐに歩くには」といった基本から、波のうねりさえも読みとくミクロネシア人の海上ナビゲーションのような驚嘆の技術まで──世界中の自然のしるしが話題にのぼり、それらを巡りながら五感の使い方を再発見させられるよう。ギャティの贅肉のない文章は、自然に対する畏敬と、いにしえの探検家たちや世界各地の先住民族の叡智への敬愛に貫かれている。読み終えないうちから、すぐにも外に出て自然物との新しい関係を始めたくなる。はじめに1 自然は導く2 昔の人類はいかにして旅をしたか3 第六感は存在するか4 円を描いて歩く5 まっすぐに歩く6 耳を使う7 嗅覚を使う8 空への反射──動かない雲についての注記9 風向き10 太陽と風がもたらす効果11 樹木や、その他の植物12 蟻塚の道しるべ13 砂漠で14 極地で15 丘と川16 距離を推測する17 都市で18 スポーツとしてのオリエンテーリング19 波とうねり20 海の色21 海鳥の生態22 月が告げること23 太陽から方角を知る24 星から方角を知る25 星から時間を知る太陽方位角の簡易表謝辞ナビゲーターたちのプリンス──訳者あとがきにかえて